こんにちは!
元看護師のアクリル画家、松井京丸です。
2匹の愛猫と暮らしながら、癒しと解放をテーマに制作活動をしています。
『瞬きのあいだ』(アクリル絵の具)
「統合失調症が悪化するにつれて、猫の絵が不気味な幾何学模様に変わっていった」
あるいは「検索してはいけない画家」。
ネット上でよく目にするこれらの説は、実は ルイス・ウェインという一人の画家の生涯を断片的に切り取ったもの に過ぎません。
本記事では、毎日アクリル絵の具を扱うプロの画家としての知見と、
元看護師ならではの実験的・科学的な視点、
さらには、猫飼い歴25年の経験も踏まえて、
ルイス・ウェインがなぜ猫を描き続け、その絵がどのように変容したのか、病気や人生の背景を深堀します。
この記事を読み終える頃には、彼の絵の見え方が「狂気の記録」から「純粋な芸術の探求」へと変わっているはずです。
【俗説?】猫の画家ルイス・ウェインと「精神病による変化」
ルイス・ウェイン(1860-1939)の現代における一番の特徴をご存知ですか?
それは「猫画家」という肩書きと必ずセットで語られる「精神病」という言葉ではないでしょうか。
まずは、そんな猫画家ルイス・ウェインと精神病の関係性について見ていきます。
- ルイス・ウェインと精神病の一般的なイメージ
- 世間で言われている「画風の変化」の真相
- 画家としての視点から見た作品の第一印象
猫を愛する画家と精神病の関係性とは?
ルイス・ウェインは、猫を対象とした作品で知られる、イギリスで絶大な人気を誇った画家・イラストレーターです。
彼が描く擬人化された猫たちは、当時の社会現象になるほど愛されました。
■↑出典ウィキメディアコモンズ:ルイス・ウェインの擬人化された猫
晩年、彼は精神を病み、精神病院で長い時間を過ごしながらも、そこでも猫の絵を描き続けました。
病気が進行するにつれて、愛されていた猫のキャラクターが影を潜めていきます。
派手な色使いの曼陀羅模様のような万華鏡アートへと変化していった……。
というのが、一般的に世間で言われている彼の遍歴です。

世界中で有名な「猫の絵が幾何学模様になる」画像
■↑出典ウィキメディアコモンズ:ルイスウェイン作品の比較画像
精神医学の教科書やネット記事で、彼の絵が6~8枚ほどの段階を経て変化していく図を見たことがあるかもしれません。
これらは、統合失調症の病状の進行とともに具象的な猫が抽象的なパターンへ崩壊していくプロセスとして紹介されてきました。
ルイス・ウェインの晩年の作品が、初期とは大きく異なっていることは確かです。
しかし、病状の悪化とその変化を安直に結び付けるのはいかがなものでしょうか。

100人に1人くらいに発生する決して珍しくはない病気です。幻覚、幻聴、妄想が起こります。脳内の情報伝達物質のバランスが崩れることが原因と言われています。
なぜ彼の猫の絵は「精神病の象徴」として扱われたのか?
彼が精神病院に入院していた事実は確かであり、当時は「統合失調症による視覚の変容」の格好の事例とされました。
しかし、この「猫の絵の順序」は後世の学者が並べ替えたものであり、描かれた正確な日付は不明なものが多いのです。
精神分析医のウォルター・マクレーは、ウェインの晩年の絵画を「才能が失われる証拠」として提示しました。
一方でデヴィッド・オ・フリン博士は、才能の喪失どころか、 より高度な挑戦と多彩な色使いが見出せる と主張しています。
情報の裏側を知ることの大切さを改めて感じました。特に「専門家」の肩書きがあると信じてしまいがちですが、思い込みで人を判断することの怖さを忘れてはいけません。
ゴッホが晩年を精神病院で過ごしたことは有名ですね。日本では草間彌生さんが筆頭です。山下清さんも、障害を抱えながら制作を続けていました。

【時系列】ルイス・ウェインの生涯と「猫の絵」の移り変わり
■↑出典ウィキメディアコモンズ:ルイス・ウエイン「The bachelor party」
彼の人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。
若くして父を亡くし、母と5人の妹を養う一家の柱として、必死に筆を走らせる日々を送っていました。
- 愛妻にささげた擬人化された猫の絵について
- 次第に色彩が鮮やかに、ち密になっていく猫の絵について
- 晩年、入院中に描いた幾何学的な猫の絵について

年表:猫を愛する画家ルイス・ウエインの生涯
1860年
ロンドンにて誕生。
美術学校を卒業し、教師として働いていた。
1880年
父親が死去。ルイス・ウエイン20歳。
雑誌の挿絵として風景画や動物画を描き賃金をもらった。
1883年
妹の家庭教師であったエミリーと結婚。エミリーは10歳年上で、家庭格差もあった。当時のイギリスでは10歳差というのはかなり問題になる事柄でした。
結婚後、エミリーがガンに侵されていることが判明する。病に苦しむエミリーのために、愛猫ピーターの作品を多く描いた。
1886年
エミリー死去。
擬人化された猫の絵が雑誌に掲載される。以後30年間に数多くの作品を描いた。金銭感覚に乏しく、人が良くすぐにだまされることから、常に貧乏だった。
1907年
ニューヨークへ旅行。作品の評価は高かったが、後先を見ない買い物で経済状態は悪化。
1910~1920年頃
精神のバランスを崩し始め、統合失調症と診断される。
1924年
スプリングフィールド病院に入院。
1925年
王立ベスレム病院に転院。
1930年
ナプスバリー病院に転院。ここには患者用の心地のいい庭があり、数匹の猫が飼育されていた。ルイスは気が向けば猫の絵に取り掛かっていた。
1939年
ルイス・ウェイン死去。

初期:愛妻に捧げた擬人化された愛らしい猫たち
彼が猫を本格的に描き始めたのは、ガンで闘病中だった最愛の妻エミリーを元気づけるためでした。
飼い猫の「ピーター」をおどけた姿で描いたことが、すべての始まりだったのです。

中期:色彩が鮮やかになり、緻密な描写へ
最愛の妻を失った後、その喪失感を埋めるかのように彼は数多くの猫の絵を描きました。
名声を得ることはできましたが、金銭感覚に疎かった彼は常に経済的に困窮していました。
■↑出典ウィキメディアコモンズ:ルイス・ウエイン 「front Cat car crash」
次第に、猫の背景に複雑なパターンが現れ始め、色彩もより強烈なものへと変化していきました。
■↑出典ウィキメディアコモンズ:ルイス・ウエイン「Wain cat」

ボク自身、ガン宣告を受けたあと、絵を描きまくりました。その時の絵を描く目的は正直なんにもなかったんです。ただ目の前の怖いことから目をそらしたかっただけかもしれません。
病気の怖さ、治療への不安、未来のこと、それらを描いている間は忘れることが出来ました。
晩期:カレイドスコープ(万華鏡)のようなサイケデリックな猫
晩年、彼は貧困と精神的な不安定が続き、さらに統合失調症と診断されます。
入院生活の中で描かれたのが、猫の形が複雑な装飾と一体化した、万華鏡のような鮮やかな作品群です。
ルイス・ウェインは、統合失調症という精神病に罹患した画家というイメージがあまりに大きく捉えられているなと言う気がしてなりません。
「精神病=創造的才能が失われる」という一部の学者の主張は、それに反対する学者の意見がどんなに大きくてもなかなか覆ることがありません。
精神病による才能の「崩壊」と見る考え方がありますが、これは本当に崩壊なのでしょうか。テキスタイルのような美しさは、むしろ「進化」とも考えられます。
【考察】精神病だけが理由じゃない?「猫の絵」の新事実
近年の研究では、彼の絵の変化を単なる病気の進行とする見方に疑問が呈されています。
- 最愛の妻との死別と孤独の影響
- 別の病気や障害の可能性
- 芸術家としての進化という説
最愛の妻との死別と、孤独が作風に与えた影響
エミリーの死後、彼は深刻な孤独の中にありました。
彼にとって猫を描くことは、失った幸福な時間を取り戻すための「祈り」に近い行為だったのかもしれません。
彼が多作だったのは、最愛の妻エミリーを失った喪失感によるものが大きいと思いました。
孤独を癒すための創作活動は、寂しさから豊かな自分だけの時間に変えてくれるものではないかと思います。
ルイス・ウェインが猫の絵を大量に描いている姿を想像して、オートマテスムやゼンタングルが思い浮かびました。

- オートマティスム:何も考えずにペンを走らせ、自己を解放する技法。
- ゼンタングル:決まった模様を繰り返して描き、マインドフルネスを得る手法。
口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)と発達障害の可能性
ルイスは生まれつき口唇口蓋裂があったという説があります。
そのためにいじめを経験し、学校を休みがちだったと言われています。
また、一つの物事への異常なこだわりや対人関係の苦手さは、現代でいう「発達障害(アスペルガー症候群など)」の特性を持っている可能性が高いと指摘されています。
今の時代でも身体的特徴による差別はありますが、100年前の時代にはその差別がどれほどひどかったことか想像に難くありません。
身体的特徴や特性による生きづらさを抱えながらも、彼は才能を開花させました。
「くちびる」や「口の中の天井(上あご)」がうまくつながらず、割れた状態で生まれてくること。現代では、医療の発達により手術で見た目も機能も治ることがほとんどです。しかし100年前では、手術自体は行われていましたが、完全に治すことは難しいことが多かったようです。原因も、根拠のない迷信で責められることが多かったといいます。
現在は医学的な分類で「自閉スペクトラム症(ASD)」という大きなグループの中に含まれています。こだわりが強く、特定のことが大好き、感覚がとても敏感、空気が読めないなどの特徴があります。100年前では、その名称すらありませんから、しつけや性格のせいにされることが多かったようです。

統合失調症の悪化か?それとも芸術家としての進化か?
彼の晩年の作風は、当時の 「アール・デコ」や「サイケデリック」な流行を先取り していたとも言えます。
病気による「崩壊」ではなく、一人の表現者としての「スタイルの確立・進化」だったという説も無視できません。
新しい表現や知らない世界への挑戦は、時として不安を伴うものです。
変化を恐れず試してみることは、自分の殻を破るチャンス でもあるもの。
それがチャンスへの大きな扉となる可能性は大きいのです。
今回、ルイス・ウエインに改めて教えてもらった気がします。

【魅力】現代に語り継がれる猫愛あふれるルイス・ウェインの功績
彼は単なる「悲劇の画家」ではありません。
私たちの日常に、決定的な変化をもたらした人物なのです。
- 動物愛護の先駆者である
- 映画や展示会で再評価されている
- アートセラピーとして語られることも
「猫の社会的地位」を向上させた動物愛護の先駆者
彼が登場する以前、イギリスにおいて猫は「ネズミを捕るための家畜」であり、蔑まれる存在でもありました。
しかし、 彼の描く愛らしい猫たちが大流行 したことで、人々は猫を「家族(ペット)」として迎え入れるようになったのです。

映画や展覧会で再評価される「猫愛」に溢れた人生
近年、ベネディクト・カンバーバッチ主演で映画化されるなど、彼の人生は再び脚光を浴びています。
彼の絵が持つ圧倒的なエネルギーは、今もなお多くの人を惹きつけて止みません。
映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』では、彼の生涯を映像で観ながら、感じ取ることができました。
不器用にもがきながらも、愛するものを守り続けた画家の、真っすぐな人生を垣間見ることができます。
売れっ子になったころの目まぐるしい毎日の「動」と
晩年、入院生活を送る「静」の対比が印象的でした。

★Amazonprime会員の場合400円でレンタルできます★
●↓『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
★映画公開と共に出版された本。冒頭には主演を務めたベネディクト・カンバーバッチの言葉も掲載されています。ルイス・ウェインの言葉やたくさんの絵画も収録されています★
●↓『ルイス・ウェインのネコたち』
■↓とにかく猫の絵を本で堪能したいという方は、こちらでおすすめを紹介しています。
アートセラピー(芸術療法)の視点から見る猫の絵
彼の絵は現在、心を癒やす「アートセラピー」の文脈で語られることもあります。
描くことで自分の心を支えた彼の姿勢は、現代のメンタルヘルスにおいても大きな示唆を与えています。
病気になったとき、仕事でうまく行かなかったとき、家族の問題……などなど。
だれもが、なにかしらの問題を抱えることがあると思いますが、
そんな時のために、 アートセラピーのことを一つの選択肢として持っておくのは得策 だと思います。
多くの精神病院では、入院患者を対象に治療の一環として作業療法というものを取り入れています。その内容は、絵を描いたり、書道をしたり、陶芸をしたり、革細工をしたり、編み物をしたり、実にバラエティに富んでいます。一人で没頭するのもよいし、グループで楽しむのもよいという感じが多いです。これによって、自らを癒すと同時に、社会に出る準備もしているのです。


■↓猫の絵を鉛筆で描くコツを5つ紹介しています。
■↓とにかく可愛く猫を描いてみたい!という方はこちらの記事をご覧ください。
【Q & A】猫の絵と精神病についてよくある質問

Q:猫の絵を描いた精神病の画家は誰ですか?その特徴は?
A:精神病の猫画家は「ルイス・ウエイン」が有名です。
ルイス・ウエインの特徴
猫の絵
愛猫のピーターを愛妻のために描いたことをきっかけに多数の猫の絵を描き続けました。初期は写実風の絵もありますが、擬人化された猫の絵が有名です。二本足で歩き、服を着て、人間がやることを何でもやっています。晩年は幾何学模様のような絵に描いたことでも有名です。
多作の画家
非常に筆が早く、多作であることでも有名でした。多い時には年間に何百もの絵を描き、挿絵を手掛けた児童書は100冊以上に及びます。絵葉書は75の出版社から1100枚以上が出版されました。
経済的不遇
画家としてはとても人気があり成功していましたが、家族(母親と5人の妹)を養っていたことに加え、経済観念にはめっぽう疎く、自分の作品がどれほどの価値を生むかという損得勘定には、驚くほど無頓着でした。
動物愛護活動
ナショナル・キャット・クラブの会長を始め、いくつもの動物愛護団体に入って活動をしていました。
統合失調症
50代後半から精神のバランスを崩し始め、60代で入院生活を余儀なくされました。
Q:ルイス・ウェインは本当に精神病(統合失調症)だったのですか?
A:当時はそう診断されました。
現在ではASD(自閉スペクトラム症)の特性や、芸術的探求だったという説も有力視されています。
Q:ルイス・ウェインの猫の絵はどこで見ることができますか?
A:イギリスのベスレム王立病院附属博物館などが有名です。
ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)にも多くのコレクションが収蔵されています。
日本では不定期に開催される企画展や、画集で見ることが可能です。
画集は、Amazonの電子書籍でも楽しめます。

●↓『ルイス・ウェイン画集 』
●↓『ルイス・ウェイン 猫画集 vol.1』
●↓『ルイス・ウェイン 猫画集 vol.2』
Q:ルイス・ウエインが描いた猫にモデルはいますか?
A:はい、愛猫の「ピーター」が最大のモデルです。
ピーターがいなければ彼の名作群は生まれませんでした。
そのピーターは白黒のハチワレ猫だったそうですが、残念ながら画像を見つけられませんでした。
映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』では、白黒ハチワレ猫ちゃんが登場します。

【まとめ】ルイス・ウェインの猫の絵は精神病を超えた芸術である
今回の記事では、猫を愛した画家ルイス・ウェインの生涯について見てきました。
- 家族のために働き始め、最愛の妻エミリーのために猫を描き始めた。
- 妻の死後、喪失感を埋めるように擬人化された猫を大量に描いた。
- 「画風の崩壊」という俗説は、後世の並べ替えによる偏見の可能性がある。
- 彼は猫を家畜から「愛すべき家族」へと昇華させた偉大な画家である。
ルイス・ウェインの絵の変化は、精神病という一つの側面だけでは語れません。
それは深い愛、喪失、孤独、そして純粋な探求心が織りなした、唯一無二の芸術の形です。
まずは、偏見や思い込みを捨てて、作品を真っ直ぐに見つめ直してみませんか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。 このブログでは、アクリル絵の具と猫の絵に関することをやさしく簡単に紹介しています。 また、YouTubeではわかりやすく動画でご覧いただけるように工夫しています。 よろしくお願いします!
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